「食育」という言葉は、ここ数年、さまざまなメディアにも出てくる言葉です。
食を育てる?食が育てる?食で育てる?
人によって、さまざまな捉え方があると思いますが、今回は、食が育てるものは何か、なぜこういった考え方が生まれたのかなどについて、お伝えしたいと思います。
食育とは、「食に関する知識を育てる」という意味で使われている言葉です。
最近になって、良く見聞きするようになりましたので、比較的新しい言葉かと思う人も多いかもしれません。
でも実は、かなり古くから「食育」という言葉はありましたし、食育に関する法律もあるのです。
「食育」という言葉の起源は、明治時代の書籍であるといわれています。
明治時代に石塚左玄という人物が書いた、食養生の指南書『食物養生法(明治 31(1898)年初版発行)』と、村井弦斎という人物が書いた当時のベストセラー小説『食道楽(明治 36(1903)年)』に、「食育」という言葉が出てくるのだそうです。
ただ、この2つの書物の中では、それぞれ少しずつ違う意味で使われているようです。
いずれにしても、食により子どもの心身を育むという点では共通しており、知育(知性を育てること)や体育(体を育てること)の基礎として、「食育の重要性」を主張していたといわれています。
しかし、この当時はまだ、一般市民の中に「食」に関する知識が深まることはなく、この言葉は定着しませんでした。
それから年代はかなり現代に近づきますが、1980年代に書かれた書物や論文などの中に、「食育」という言葉が使われていたようです。
一人の小児科医は食育という言葉を「食事に配慮して子どもを育てる」という意味で使っていました。
また、別の大学教授は、「子どもが健康を自分で守るための力をつけさせるために食物の知識を教えること」を食育と呼びました。
1980年代といえば、戦後の日本が高度経済成長を経て豊かな国になり、日本人の食生活が大きく変わった時代です。
人口が初めて1億2000万人を超え、世界一の経済大国となり、家電や自動車産業が世界のトップになったのも、この時期だったそうです。
また、日本人の死因のトップが、脳卒中から「がん」に変わったのもこの時期でした。
しかし、人々の中にはまだ「食習慣の重要性」に興味を持つ人が少なかったのでしょう。
この時代にも、「食育」という言葉は一般には広がりませんでした。
しかし、1980年代後半に起こった「バブル経済の崩壊」を機に、1990年代に入ってからは食に深く関心を寄せる人や、栄養士・管理栄養士をはじめとする食や栄養に関わっている人たちの中で、「食育」という言葉を使う人が増えはじめ、徐々に一般にも広がっていったようです
では、現在の日本の食育は、どのような考え方で進められているのでしょうか。
1990年代から一般にも広まった「食育」という言葉は、主に食について子どもを教育するという意味で使われていたようです。
当時の日本には、次のような課題があったといわれています。
またこれらの背景には、外食が増えたことや、ライフスタイルの多様化があります。
分かりやすくいえば、保護者が子どもの食事を把握し、管理することが難しい状況が増えた、ということのようです。
こうした問題について文部科学省は、2003年に「食に関する指導体制の整備」についての方針を公表しています。
その中で、「学校における食に関する指導の現状」に触れ、「食に関する指導の充実の必要性を重視する」としています。
さらに、食に関する指導体制整備の方向性として「学校栄養職員の持つ食に関する専門性に加え,教育に関する資質を身に付けた者が食に関する指導を担えるよう,栄養教諭制度を創設すべきである」と記しています。
また、2004年に厚生労働省は、「食育とは、『食に関する知識と食を選択する力を修得し、健全な食生活を営む力を育てる』もの」と示しています。
こうした動きの中で、農林水産省(「食材」といえばここです)も加わり、「食育」に関する国家的な動きが広まってきました。
そして2005年に、 「食育基本法」という法律が定められ、日本における食育が本格的にスタートすることになったのです。
尚、食育基本法の目的は、「国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性をはぐくむための食育を推進するため、食育に関する施策を総合的かつ計画的に推進すること等」となっています。
そもそも、子どもたちへの食育が必要となった過程を、振り返ってみます。
まずは子どもの生活習慣病です。これはかつて「成人病」と呼ばれており、成人以降、加齢とともに増えてくる病気を総称したものでした。
しかし子どもの中にもいわゆる「肥満」が増え、4~5歳くらいの幼児の中にも、血圧が高い、コレステロールなどの異常、というリスクを抱えた子どもがいたのだそうです。
肥満は比較的分かりやすい変化ですが、血圧やコレステロールの異常は、血管の状態を詳しく調べないと分かりません。
成人でもこれらのリスクがある人は、食事や運動などによる治療を必要とします。
子どもの頃からこうした変化が起きているということは、将来的に生活習慣病のリスクが非常に高まります。
また、20歳の時点で朝食を抜いていた人の半数以上は、高校生までに「朝食を食べない」という習慣が身に付いていたとされています。
さらに、孤食(一人でご飯を食べること)の児童が増加するなど、健全な食生活とは言い難い状況にある子どもたちが増えてしまいました。
こうした背景があり、「子どもの健全な成長を」という目的から始まったのが、食育だったのです。
では、具体的に、何をどう育てるのが食育なのでしょうか。
文部科学省は児童や生徒が通う「学校」を管轄するところですから、食育への取り組みとして、学校の中に「栄養教諭」と呼ばれる先生を配置するとしています。
また、現在の農林水産省のウェブサイトには、次のように書かれています。
食育は、生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるものであり 、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実現することができる人間を育てることです。
つまり、育てるのは「人」なのです。 さらに厚生労働省では(人の健康を管理するのはここです)、健康づくりのための食育の推進に関する基本的取組として、次のような施策を行うとしています。
これだけを見ると分かりにくいのですが、1と2については、「健康になる、あるいは健康を維持するための健全な食習慣を身に付けるような取組を推進すること」です。
3については、その前段階として実態を調査する、というところでしょうか。
家庭や保育所等では、保護者や子どもたちに対し、食の安全、健全な食生活についての指導やアドバイスなどが含まれるでしょう。
地域において対象となるのは一般市民ですが、こちらも同様に、それぞれの個人の栄養状態や食生活の状況を把握し、不適切なところは適切になるように指導すること、あるいはどのような食品が安全なのかという正しい知識を広めること、となります。
では、保育園や幼稚園など、子どもたちが通う施設では、どのような食育が行われているのでしょうか。
京都栄養医療専門学校には「保育園栄養士コース」がありますが、ここを卒業した先輩に聞いてみたところ、次のような取り組みをしているとのことでした。
また、提示している食品群を見せながら、「この野菜はどこかな?どんな働きのある食べ物かな?」など、クイズ形式で学ぶ時間を、日中の活動時間の中に設けているのだそうです。
この他、別の保育園では「子どもとクッキング」という活動があったり、「親と子の昼食会」などを年に数回開き、保育園での実際の食事を保護者にも食べてもらうこともあるのだとか。
乳児のいる保育園では、保護者からの離乳食への相談を受けることもあり、何をどう調理すれば良いか、具体的なメニューは何かなどを指導することもあるそうです。
では、栄養士や管理栄養士と、「食育」との関係をみていきましょう。
栄養士は、栄養や食に関する勉強をしていますから、その道のプロとしてさまざまなフィールドで活躍できます。
例えば栄養士科では、次のような講義を受けることができます。
<食品衛生学> 「食の安全性」を確保するために必要とされる知識を身につけます。
また、食品に含まれる化学物質について、そのメリットやデメリット、体への影響についても学びます。これらの課程の中で、栄養士として必要な衛生管理知識も習得します。
<食品学実験> 食品の栄養成分や性質の違いを知ることは、栄養士の基本です。
身近にある食品を使って、実験の基礎力を身につけながら、成分分析などでその性質を学びます。
<生化学実験> 身体の中に取り込まれた栄養素が体内で代謝されていく流れについて実験を通して、知識を習得します。
また、身体の仕組みや構造、機能についての理解も深めます。
<公衆衛生学> 公衆衛生の目標は、国民の健康を守り、増進すること。自然、公害、疫病などの環境問題を地球規模で理解するとともに、労働衛生についても学びます。
これらは、栄養士科の授業のほんの一部。座学だけではなく、いくつもの実習・実験を通して、体の中に取りこまれた栄養成分がどのような影響を与えるのか、深く学ぶことができます。
食育は人を育てる取組みではありますが、これがもっとも必要とされるのは子どもたちです。
特に保育園に通うくらいの幼児に対しては、ただ「この食材を使った料理を食べましょう」という方法では、教えることはできても、育てることにはなりません。
子どもたちが食に興味を持ち、楽しみながら覚えていけるような工夫が必要です。
食に関するクイズを考えたり、紙芝居にして説明したり、パペットを使って会話形式で話をするなど、対象となる子どもたちの状況によって変えていくのだそうです。
こうした工夫をすることで、最初は興味が無さそうだった子どもでも、みんなと一緒になってクイズに答えるようになり、残しがちだった給食もだんだんと「残さず食べる」ことができるようになるのだとか。
さらには、朝ごはんをしっかり食べてから来る子どもや、行事食を楽しみにする子どもも少しずつ増えてくる、ということでした。
さらに、子どもへの食育は、保護者にも理解してもらい、家でも継続してもらう必要があります。
中でも、偏食傾向の強い子どもや、アレルギーへの配慮が必要な子どもなど、保護者との面談をくり返しながら、適切な食に関するアドバイスをしていくことになります。
特に子どもたちへの食育が、今後ますます広がっていくようになると、健全な食習慣を身につけた子どもが増えていくでしょう。
その中で栄養士・管理栄養士が求められることは何か、どうすれば食育に貢献できるのか、わたし自身、もう一度深く考えてみたいと思います。
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【学校法人大和学園 京都栄養医療専門学校】
以下の学科をもつ、京都・嵐山にある専門学校。
●管理栄養士科[4年制]
●栄養士科[2年制]
●管理栄養士科3年次編入学
●医療事務・医療秘書科[2年制]
●診療情報管理士科[3年制]
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